この記事は、自分が購入したインサイト・エクスクルーシブの紹介記事を書くに当たり、補足内容として書こうと思ったらあまりにもボリュームが増えすぎたので、別記事としたものです。
↑ちなみにこちらがインサイトのインプレッション記事です↑
ホンダが2009年当時のハイブリッドカー市場に殴り込みをかけた際、当時先行していたトヨタが行った反撃は一部で大きな話題になりました。
あまりにも苛烈というか、資本力を武器にした
「見てくれなど何も考えないぞ!」
と言わんばかりの凄まじいものだったので、ぜひ書いて置きたいと思ったのです。
二代目インサイトについて
2代目インサイトは2代目プリウスを徹底的にモデリングし、かなりそっくりなフォルムに仕上げました。
なので、「プリウスをパクった」などと言われることも多々あります。
ただ、当時の空気力学・流体力学の解析の能力と、デザインとコスト/生産性をバランスさせていくと、似たような形になるのは否めない部分もある…と思います。
2代目インサイトのハイブリッドシステム
初代インサイトから始まり、2世代に渡るシビックハイブリッドでデータを蓄積されてきた、IMA(Integrated Motor Assist = 統合型モーター補助)の熟成型といえるものです。
基本的にはエンジンが主役で、モーターがエンジンの始動・発進・加速時にトルクを補助するというもの。
極めて乱暴に言えば、電動アシスト自転車と原理が近いです。
これに対してプリウスはシリーズ・パラレル型ハイブリッドと呼ばれる、「THS (Toyota Hybrid System)」というシステムを使っています。初代から
基本的にエンジンとモーターの協調制御で走行し、条件によってはモーターだけでも走行できます。そのため制御がかなり複雑なものになっています。
初代の出来は結構ひどく、カックンブレーキやギクシャクした走行フィールで苦言を呈されたことも多々有りました。2代目での「THS-2」ぐっと完成度が上がり、3代目でリダクション型TSH-2で一つの完成形に近づきました。
2代目インサイトの設計思想
ホンダは2代目インサイトに、「ハイブリッドカーを安くして、より多くの人に届ける」という使命を与えました。
その後多数計画されていた、ホンダのハイブリッド軍団の先鞭を切るべく、そしてプリウスの圧倒的な攻勢を食い止めるような商品力を求めました。
そこで取られた戦略は、徹底的な部品共通化、コストダウンです。
ホンダさんは、ともすると何でもかんでも専用品・専用設計をやりたがる傾向があります(それが旧車好きを苦しめることも多々)。ですが今回は1万点ほどの部品を他車種と共用化し、調達コストを抑えました。
また既存のHEVシステムからの大掛かりなアップグレードや、目新しい技術の導入はしませんでした。あくまでも2代目シビックハイブリッドのシステムをキャリーオーバーとし、制御や機構をブラッシュアップ。電池のセル数を減らしながらも電池出力・放電効率を上げるなどの努力をされました。
そしてこだわったのが軽量化。もともとシステムが単純で燃費向上高価が限定的なので、車両重量自体を軽くして効率を向上させる基本的な部分を徹底しました。
その結果、「189万円」という当時のハイブリッドカーとしては驚異的に安いプライスタグ掲げることに成功。2009年2月に発売されました。
燃費はJC08モードで26.0km/L。2代目プリウスが同モードで29.6km/Lだったので数値的には負けているものの、インサイトの直後に発売が予想されていた3代目プリウスは大型化が予想され、価格も230万円位になると想定されていました。価格差を40万円程度に設定し、シティーユースをメインとした「廉価な新型ハイブリッドカー」というポジションを確立すれば、勝機があるとホンダは判断したのだと思います。
運命の対決の結果
で、結局どうなったかというと、発売直後の3ヶ月ほどは人気と受注が殺到したものの、
2009年5月に発売されたプリウスに返り討ちにあいました。
まあ実際今あんまり走ってないですもんね。
ただトヨタにとってインサイトの登場は相当に衝撃的だったらしく、「あのシステムで本当にこの燃費が出せるのか?」とトヨタの技術者がビビったという噂は多数耳にしました。
「ハイブリッド=トヨタ」「エコのトヨタ」という図式を完成させるべく動き、浸透戦術を徹底していました。先行投資の名目で多額のお金を使ってシステムを開発し、そして3代目プリウスの代でようやく投資回収できる見込みが立ち始めていました。
そんな矢先登場したインサイトは、目の上のたんこぶ以外の何物でもなく、計画必達のため何としてでも叩きつさなければいけない存在となりました。
大幅値下げ
トヨタは急遽販売グレードの見直しを敢行。最廉価のLグレードを205万円からと設定しました。
実際は標準装備とされていたナビも取り外さされ、細かな快適装備を削りまくった「見せ球」的な仕様なのですが、顧客に与えるインパクトは強いです。
また実質的な量販グレードとなるSは220万円、上級グレードのGも245万円に設定されました。
2代目と比較すると、S同士で11万円、G同士だと17万5千円も値下げしています。通常どんどん値段が上がっていくはずなのに、このプライス設定は驚異です。
利益を落としてもいいから、販売台数を確保するという強烈な意思を感じます。
先代プリウスの販売継続
上の画像にも有るように、3代目の発売と同時に、2代目プリウスの継続販売を決定し、ビジネスユーザーをターゲットとした廉価グレード「EX」を設定。
プライスタグは189万円。インサイトと同じ金額です。
メーカーとしては減価償却が終わった車なので、実売はもっと安かったはずです。強力な販売網を使った、リース系の販売もあったことでしょう。
5ナンバーサイズで商用車的に使うユーザーも囲い込みました。
比較広告
個人的にものすごく強く印象に残っているのが、この比較広告です。
「ご参考」ですって。「架空のクルマ」ですって。
ライバル車(言わずもがな)が非力で、プリウスが力強くて優秀である、という図式をこれでもかと見せつけていました。
んでもって、これが間違った表現かというとそうでもなくて、むしろ分かりやすく纏められているのがまた憎い。当時のインサイトにはEVモードがなく、高速走行時のモーター補助も限定的でしたので。。
「隣の車が小さく見えます」
とか
「名ばかりのGT達は、道をあけろ。」
とか
「ポリシーは、あるか」
なんていうキャチコピーでの暗喩、揶揄なんかはたくさん見ましたが、カタログや宣伝で露骨に表現されたのは初めてだったのではないかと思います。
エゲツねぇ…
と複雑な感情を抱いたのをすごく覚えています。
ちなみに2021年現在、トヨタの公式HPにも過去のプリウスの歴史として上記の画像が記載されています。
1枚画像にコンパクトになって纏めてありますが、これでも非常にわかりやすいのがにくいです。
結果とまとめ
上記のようなトヨタの強烈なカウンターパンチを何発も受けて、インサイトは完全に失速。
そして身内からも、翌年の2010年に使い勝手と燃費を向上させたフィットハイブリッド・フリードハイブリッドなどが登場。完全に需要を食われました。
もともとセダン人気に限りが見えてきていた状況と相まって、インサイトはあっという間に販売台数ランキングから姿を消しました。
プリウスと月間販売台数を比較すると、18,000 : 1,200 という、実に15倍もの差を付けられ、月によっては500台/月も売れない時期もあったそうです。
マイナーチェンジを施されるも、目立った販売台数増加にもつながらず。
そんなこんなで、2014年には販売終了し、2019年に見違えるくらい立派になって復活するまで、5年ほどホンダのラインナップから姿を消すことになります。
3代目← ・ →2代目
商品的には失敗作扱いされてしまっているインサイトですが、ホンダのHEVシステムの礎を築いたのは間違いありません。
その後DCTを搭載したハイブリッドシステムの「i-DCD」や、それのさらなる発展系である「i-MMD」「e:HEV」などにも、モーター技術やバッテリー技術としてインサイトの志は生きていると思います。
また新技術をあまり取り入れなかったのが功を奏したようで、3代目フィットのようなリコールが連発されることもなく、10万キロ以上走ってもバッテリーや変速機にに大きなトラブルは少ないという話も聞きました。
別記事にインサイト・エクスクルーシブのインプレッションを記載していますが、非常に気持ち良い走りをします。
さすがホンダです。変態的ですらあります。
2021年現在では底値近い値段で購入できる、燃費と走りを楽しめる貴重なスポーティーハッチバックじゃないかと思っています。
以上です。
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